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気候変動は慈善活動ではない

企業は株主に負担をかけずに地球環境を守ることができる
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Fortune.comに掲載され、ネスレのグローバルサイトに転載された英文記事を翻訳しました。

気候変動という世界的な課題は、もはや先延ばしにできることではありません。ネスレのように世界規模で事業を展開し広大なサプライチェーンを持つ企業は、長期的に成長を目指すなら、気候変動が文明社会にもたらす脅威を真剣に受け止める必要があります。

ネスレは、持続可能な未来に向けて業界をリードすべく、課題に全力で取り組んでいますが、今こそ、自らを振り返り、真実を語る時だと考えています。

ネスレの気候変動の取り組みにはコストがかかりますが、無料奉仕や慈善活動と捉えるべきことではありません。ネスレは、結局のところ企業です。私たちは社会の枠組みの中で、環境と株主のために貢献しなければなりません。ネスレのような企業が乗り越えなけなければならない課題は、現在と未来の間にあります。この課題を解消したとしても、環境保護活動家や投資家の両方を十分に納得させることはできないないでしょう。実行可能な計画には、短期的、長期的な期待値のバランスをとるための実用性が必要です。ネスレは、高い目標を掲げ、投資の環境を整え、移行コストの壁を乗り越え、競争優位性を確立することで、これを実現していくことを計画しています。

ネスレのような規模を持つ企業にとって第一歩となるのは、骨太で透明性のあるリーダーシップを発揮することです。ネスレは世界のほぼすべての国で事業を展開しており、私たちの意思決定が食品業界の変化を促すきっかけにもなりえます。ネスレはこの責任を重く受け止めています。政治の状況が変わろうとも、パリ協定に対するネスレの支持が揺らぐことはありませんでした。そして、2030年までに温室効果ガスの排出量を半減させ、2050年までに実質炭素排出量をゼロにするというコミットメントを宣言しました。

 
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ここで考えるのを終わりにしたくなるかもしれませんが、ネスレは事業を成長させ、競合他社を先駆ける方法でこれらの取り組みを行っています。ネスレのような消費者向けビジネスにおいて、消費者が環境への配慮と透明性を重視する傾向が強くなってきていることは明白な事実です。消費者ニーズを無視すると、ネスレ製品を消費者に購入してもらえなくなくなります。前向きに考えれば、この分野において骨太で意義ある行動を取ることは競争優位性となり、市場シェアの拡大と成長につながる可能性があります。そして、低インフレ、ゼロ金利の世界で力強いオーガニックグロースを維持することは、ネスレのような企業にとって究極の価値を生み出す推進力となります。

これらの取り組みに投資する環境を整えて初めて、ネスレは、環境に対する長期的な目標を実現することができます。新たに環境に配慮して改良されたソリューションは、現行のものより高額となるため、初期投資として多額の移行コストが発生します。コストが下がるのを待っていることは何もしないことに等しく、新しい技術の発展を阻む悪循環に陥ってしまいます。これがあらゆる業界の企業が直面している現実であり、この点を解決できなければ気候変動への対応に失敗してしまう恐れがあります。

カーボンニュートラルを進める先行費用は、研究開発費など、将来を見据えた先見的な支出とまったく同じことです。それがなければ、企業は衰退してしまいます。だからと言って、考えもなく投資して良いわけではありません。費用の規模は慎重に調整されなければなりません。短期的な利益を損なうことなく、気候対策に資金をシフトさせるには、内部留保を見直す必要があります。支出のレベルを事前に伝えることも必要です。投資家の信用を傷つけたいのならば別ですが、この種の支出を利益損失の正当化のために使用してはいけません。これはバランスを取るのが難しい作業ですが、デジタル化が加速することで、地球上のあらゆる企業に効率改善がもたらされ、進歩を促す新たな方法が見つかる可能性が広がっているのは明るい兆しと言えるでしょう。

研究開発プロジェクトであろうと、広告キャンペーン、あるいは企業の環境フットプリントの改善であろうと - 将来を見据えたプロジェクトにおいて高い実施率を維持するのは、成功する企業経営に共通する特長です。投資家はこの取り組みを「導入リスク」と言いますが、こうした対応が他社より優れている企業もあるでしょう。数年後には、努力が実を結ばないという最初の壁は克服され、気候変動対策に役立つ技術を導入し、規模を拡大することができるようになるでしょう。

 
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消費者からの評価が高まり、顧客基盤が広がるだけでなく、リスクを回避するという点においても有益です。気候変動への取り組みに遅れが生じれば、政府による課税や規制が厳しくなるリスクも高くなります。事業の通常運営費用は上昇しており、気候変動に配慮した投資を考慮する際には、適切に反映させる必要があります。また、忘れてはならないのが資本コストです。すべての上場企業にとって、主要な投資ファンドの意思決定に環境基準が取り入れられる動きが加速しています。かつてニッチと見なされていた「グリーン投資」は、急速に標準になりつつあります。すべての業界において、動きが遅れた分だけ、コストを支払わなくてはならなくなると思った方がいいでしょう。

従業員の士気や積極的なかかわりについて、まだお話ししていませんでした。私は長年企業経営に携わってきましたが、地球の未来を守る取り組みほど、社員の活力を高めるものないと感じています。善いことを行い、地球や社会を良くしていくことは、世界的な人材獲得競争における優位性になります。

ハーバード・ビジネス・スクールで私が大好きだった、マイケル・ジェンセン教授は、尊敬されていましたが、型破りな経済学者でもありました。長年、彼は、「株主対ステークホルダー」という図式ではなく、「啓発された企業価値の最大化」を目指すべきだと主張しています。ここでの価値には、適切に数値化された社会的な目標が含まれます。「大切な顧客層を無視したり、雑に扱ったりしていると、組織の長期的な市場価値を高めることができないのは、火を見るより明らかです」と、ジェンセン教授は2000年に述べています(英文サイトへのリンク)。

これこそ、ネスレのようなグローバル企業が気候変動に取り組む課題において最も重要なことです。道徳的な義務は言うまでもありません。地球のために正しいことをするということは、最終的にはネスレが消費者、サプライヤー、世界中のコミュニティ、そして地球に貢献することを意味します。

そして、正しいことをすることにより、株主の皆さまに貢献することにもつながるのです。