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包装資材削減を目指す700個のチョコレート

包装資材削減を目指す700個のチョコレート

スイス研究所内の気密室に整然と並んでいるのは透明パッケージで包装された700個のチョコレートバー。センサーが装着され、24時間光が照射されています。

 

まるでチョコレート好きの空想の中に出てくる「お菓子の室内栽培」のようですが、お菓子を栽培する夢のような製法が実現したわけではありません。

ここで蓄積されているのは知識。包装資材の年間使用量を最終的に大きく削減できる知識です。

情報格差


その理由を説明しましょう。食品によっては、湿度や酸素、光などの影響を受けやすいものもあります。

これは科学者が「劣化要因」と呼ぶもので、これらの要因が変質しやすい繊細な食品の賞味期限にどれくらい影響を与えるのか、十分に解明されていません。

正確なデータやデータ収集方法が不足していることから、包装に求められる保護水準をメーカーが過大評価することもあります。

これらが引き起こす問題ですが、一般的に包装資材は遮断性が高いほど構造が複雑になり、それに伴い環境に与えている影響が増大するとされています。

特定の期間における食品の変質や劣化の度合いを正確に予測できれば、食品の鮮度維持に最適な包装資材をもっと簡単に特定することが可能となります。

臨界点

ローザンヌのネスレ リサーチセンターで研究を率いる科学者のロバート・ウィティク氏は、「包装資材で完全に遮断することはほぼ不可能と言えます」と語ります。

 

「例えば、酸素はプラスチックを透過しないと考えられていますが、酸素透過度はプラスチックの種類によってさまざまです。」

「食品の酸素消費量がその風味や品質に影響を与え始める臨界点を特定することが、ここでの目標の一つとなっています。」

つまり、どの程度の酸素量と反応すればチョコレートが劣化し始めるかという点です。

試験グループ

試験を開始する前に、ウィティク氏のチームは、700個のチョコレートバーをそれぞれ特性の異なる包装資材に包むという骨の折れる作業を行いました。

「チョコレートをグループ分けし、異なる保存条件で包装しました」とウィティク氏は説明します。

「酸素遮断性の高い包装もあれば、遮断性の低い包装もあります。」

「パッケージ内部の酸素量も調整しており、チョコレートとパッケージの間の酸素量を他より増やしたサンプルもあります」

加速試験

この実験で変えないのは光量です。チョコレートにはそれぞれ同量の光を継続的に照射します。

ウィティク氏は「通常の条件下では、食品をこれほどの光に晒すことはありません。」と話します。「これは加速試験です。」

チョコレートが実際に晒される光量を正確に見極めるため、チームはサプライチェーンの経路をシミュレーションする並行研究も行っています。

同一の条件で包装したチョコレートバーを用意し、倉庫、店舗、台所の戸棚という経路を模倣して、暗い所から明るい所、再び暗い所へと移動させます。

データ志向

最初の研究室に戻りますが、ここでの実験は、今後数ヶ月にわたり、科学者が各試験グループのチョコレートバーに装着した精巧なセンサーで、それぞれの酸素消費量を測定します。

 

さらに、30日ごとに各グループの一掴みのチョコレートバーを別実験に送って、感覚検査の専門家が品質や風味の劣化の有無を確認します。

長い目で見れば、こうした実験結果に基づき、特定の条件下で特定の包装資材を使用したチョコレートの酸素消費量を算出することが可能になるはずです。

しかし研究対象はチョコレートに留まりません。これはスタートに過ぎないのです。ウィティク氏と彼のチームは、ネスレの全製品群に適用できる手法の構築に向けて、別製品の研究にも着手しています。

彼らの目的は、収集した全データを「賞味期限予測ツール」に反映することです。「賞味期限予測ツール」は、ネスレのパッケージエンジニアが十分な知見に基づき包装資材を選択できるよう開発を進めているツールです。

「包装資材は、多重層で非常に複雑な構造を備えることもあり、さまざまな機能を果たすことができます。」とウィティク氏。「ですから、適切な素材の選択は非常に専門的なプロセスなのです。」

「データ志向の手法をエンジニアが採用できるよう支援していきたいと思っています。これはパッケージの『最適化』とも言われ、製品の実際の保護要件と包装性能の適合を改善していこうというものです。」

従来の考え方を変える

この研究の一つの側面は、パッケージエンジニアに素材のより良い選択方法を提供することで、製品の賞味期限を通して品質と安全性を確保することです。

しかし別の側面は、従来の考え方を変えることです。

科学者は生産マネージャーに、担当製品の賞味期限にまず疑問を持つように促しています。


 


その理由とは? 例えば、製品の賞味期限が2年だったとして、実際には消費者が9カ月以内にこの食品を消費するとしましょう。

不要に高い保護水準は「過剰包装」を招く結果となります。

賞味期限を短縮し、関連するパッケージ要件を調整することは、簡単に実践可能であると同時に、環境パフォーマンスを改善する上で非常に効果的な手法となります。

ネスレの公約

これはフィリピンで実施された最近のパイロットプロジェクトからネスレが学んだ教訓です。

湿度が粉末飲料およびコーヒーミックスに与える影響に関する既存のデータを用い、ネスレの研究者はこれらの製品の賞味期限を再検証しました。

賞味期限を調整し、それに伴うパッケージの仕様を検討し直すことで、年間1,500トンのパッケージ削減を可能にしました。

 

パッケージの環境パフォーマンス改善に向けたネスレのコミットメントについては、ここをクリックしてください。

こうした取り組みはすべて、パッケージの環境パフォーマンス改善に向けたネスレのコミットメントに寄与するものです。ネスレは、製品の品質と安全性を保証しながら、2017年までにパッケージ使用量を10万トン以上削減することを宣言しています。

将来的な保証

一見したところ、700個のチョコレートバーを包装して数カ月棚に放置することがこの目標達成に寄与するとは思えないかもしれません。しかし、その長期的なメリットは明らかです。

異なる条件下における特定の製品の反応を正確に予測できれば、製品に必要なパッケージ使用量を最小限にすることが可能となります。

科学者はあなたのためにお菓子を栽培する方法は見つけられなくても、あなたの大好きな製品のサステナビリティを改善する方法は発見できるかもしれません。

チョコレート愛好家がこれにがっかりするなんて到底考えられません。



※本研究は中長期にわたるサステナブルな包装資材の削減を目指したものであり、すぐにすべての製品パッケージに適用されるというわけではございません。