最近話題の健康成分“ポリフェノール”。コーヒーにはどのくらい入っているの?その働きは?このページではそんな疑問にお答えします。
ポリフェノールとは、植物が自身を活性酸素から守るために作り出す物質で、抗酸化物質の代表です。分子内にフェノール性水酸基を複数(ポリ)もつ植物成分の総称なので、「ポリフェノール」と呼ばれています。ポリフェノールは、8000種類以上もあると言われています。植物に広く分布し、子孫を残すための種子や、紫外線による酸化ダメージから守る必要がある葉に、特に多く含まれます。ポリフェノール含有量は食品・飲料によって異なります。
ポリフェノールで思い浮かぶのは赤ワインやココアでしょうか。他には、お茶のカテキンやブルーベリーのアントシアニン、カレーのクルクミンもポリフェノールの仲間で、チョコレートのカカオポリフェノールなども有名ですが、100mLあたりに200mgのポリフェノールを含むコーヒーは、赤ワインに次ぐ量で、ポリフェノールが多いとされる緑茶やココアよりも多いことがわかっています(図1)。
(図1) ポリフェノール含有量比較(食品100g当り)1)
最近の調査によると、日本人の食生活では、コーヒーから最も多くのポリフェノールを摂っていて、すべての食品、飲料のうち、約半分がコーヒー由来であることもわかってきました(図2)。コーヒーの摂取により2型糖尿病や肝疾患の発症リスクが低減されるという可能性や、全死亡リスクとの関連など多くの疫学調査結果が国内外で多数報告されています2-5)。通常の食生活においても簡単に多くの抗酸化物質を摂取できる、コーヒーのポリフェノールの力ゆえの結果なのかもしれません。
(図2)日本人のポリフェノール摂取源 1)、2)
コーヒーは赤道を挟んだ南北緯25度の間のコーヒーベルトと呼ばれる地域で育つ植物。暑く、そして強い紫外線の下で生き延びる自然の知恵が、その種にポリフェノールをぎゅっと閉じ込めることだったのです。コーヒーに含まれるポリフェノールの代表は、コーヒーポリフェノール(クロロゲン酸類)です(図3)。コーヒーポリフェノールは、特に焙煎していないコーヒー豆(生豆、きまめ)に豊富に含まれています。
(図3)コーヒーポリフェノール(クロロゲン酸類) コーヒーポリフェノール(クロロゲン酸類)には、図のクロロゲン酸(5ーカフェオイルキナ酸)の他、その類縁化合物が全部で9種類あります
3. カラダも“錆びる”? 活性酸素
ポリフェノールのように、酸化ダメージから自身を守る働きがある物質は、抗酸化作用を持つ物質、すなわち「抗酸化物質」と呼ばれています。「酸化」は、金属などが“錆びる”のと同じ現象。人間が生きていく上で、なくてはならない酸素ですが、体内に入った一部の酸素は、スーパーオキシドや過酸化水素などの、「活性酸素」に変化します。ケガをしたり病気になった時などに起きる炎症反応(免疫作用の一種)でも活性酸素は発生します。タバコや紫外線、放射線なども活性酸素の源。カラダはほとんどの活性酸素を日々酵素などの力で消去していますが、残った「活性酸素」が細胞を傷つけ、またヒトの細胞に含まれる脂質を酸化して「過酸化脂質」を作るなど、身体に様々なダメージを与えると考えられています。活性酸素と戦うポリフェノールなどの抗酸化物質を日々摂取する食生活は、健康維持のために役立っている可能性があり、注目されています。
紫外線は肌の大敵。紫外線は、細胞や肌線維へのダメージ、メラニンの過剰産生などによってシミやしわの原因になるだけでなく、炎症を誘発したり、免疫系を弱めたり、ひどい場合には皮膚がんの原因になったりします。肌の健康を考えるとき、紫外線を浴びない対策(サンスクリーンや着衣、日傘など)が重要です。紫外線によるダメージには活性酸素が密接に関係するため、抗酸化物質の可能性が注目されています。成人女性を対象に行った調査では、コーヒーポリフェノール摂取量が多いほど、紫外線によるシミが少ないという結果が得られています(図4)。
(図4)コーヒーポリフェノール摂取量と紫外線シミの関係7) 首都圏在住30-60歳までの女性131名を対象に食事・飲料摂取調査と顔面画像解析による肌状態について検討したところ、コーヒーポリフェノール摂取量が多い群(165mg/day以上)は、低い群(40mg未満)よりも、紫外線シミ(メラニン分布)スコアが有意に低いという結果が得られています(*p<0.05)
ポリフェノールの抗酸化力はもともと植物自身のためのもの。人間はこれを食べたり飲んだりしているわけですが、その恩恵もポリフェノールが吸収され、カラダの中に巡ってこそ受けられるのです。これまで、ポリフェノールは体にあまり吸収されないと考えられてきましたが、分析方法の進歩もあり、最近の研究では一部のポリフェノールは吸収されることがわかってきました。コーヒーに含まれるコーヒーポリフェノールは吸収性が高いことが示されています。コーヒーポリフェノールを多く含むコーヒー、あるいは緑茶を飲んだ場合に吸収されるポリフェノールの量を比較したヒト試験では、コーヒーポリフェノールも茶ポリフェノールも吸収されますが、通常の飲用状況ではコーヒーポリフェノールを飲んだ後の方が、吸収されるポリフェノールが有意に多いという研究結果が得られています(図5)。また、こうしたコーヒーを飲んだ場合、生体の酸化指標(脂質の酸化ダメージやたんぱく質の変性)が改善することもヒト試験で示されています 8)。このように、コーヒーポリフェノールはカラダを巡り、そしてカラダの中で抗酸化力を発揮できる可能性が示唆されているのです。
(図5)コーヒーポリフェノールを多く含むコーヒーのポリフェノール吸収性9) 健康な成人を対象に、コーヒーポリフェノールを多く含むコーヒーまたは緑茶を1日400ml摂取させ、血中に出現するコーヒーポリフェノール代謝物または茶ポリフェノール代謝物量を分析することにより各ポリフェノールの吸収性を解析したところ、コーヒー群で有意に高い吸収性が観察されました
ポリフェノールが豊富なコーヒー。健康維持に大きな貢献をしていることが、さまざまな研究によって証明されはじめています。吸収性が高いことから特に注目されるコーヒーポリフェノール。コーヒーの魅力にますます注目です。
参考文献
1) Fukushima Y et al., J Agric Food Chem 2009; 57: 1253-59.
2) Ding M et al., Diabetes Care 2014; 37: 569-86.
3) Saab S et al., Liver Int. 2014; 34: 495-504.
4) Crippa A et al., Am J Epidemiol. 2014; 180: 763-75.
5) Saito E et al.,. Am J Clin Nutr. 2015;101:1029-37.
6) Fukushima Y et al., J Nutr Sci. 2014;3:e48.
7) Fukushima Y et al.,Int J Dermatol. 2015; 54: 410-8.
8) Hoelzl C et al.,. Mol Nutr Food Res 2010; 54: 1722-33.
9) Renouf M et al., Br J Nutr 2010; 9: 1-6.