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この半世紀のあいだに、日本人の平均寿命は確実な伸びをみせ、いまや世界のトップとなった。しかし、認知症や、寝たきり高齢者が増加し、深刻な社会問題となるにつれて、われわれの望んでいるのは単なる寿命の延長ではなく、「元気で長生き」であることを改めて認識させられたといえよう。何故日本人がこれまで寿命を延ばしたのであろうか。来るべき高齢化社会における栄養科学の役割を考えるうえで、その検証も必要かもしれない。今後ますます高齢化が進む中で、栄養科学のなすべき役割は大きい。加齢制御のストラテジーについて私見を述べたい。
(1) 肥満制御: 最近さまざまな学会で「メタボリック・シンドローム」が中心課題となっている。高齢者にとってもっとも身近な疾病で,寿命を縮める大きな要因でもある。これを予防するには過食と運動不足による肥満が最大のリスク・ファクターと考えられるからである。肥満制御は重要なストラテジーに数えられよう。興味深いことに、世界中で肥満が増加しているというのに,日本女性(10~40代)は肥満が減り、やせが増えているのである。しかしこれを単純に喜べないことが分かってきた。やせの妊婦は低体重児を産む率が高く、この子供は肥満になりやすく、「メタボリック・シンドローム」になりやすいことが示されているからである。腹八分の制限食は寿命を延ばし,発ガンを抑えることが分かっているが、妊婦の極端な制限はかえって次代に肥満を増やすおそれがある。「若い女性のやせ志向」に警告したい。
(2) 食欲制御: 数知れないダイエット法が出現しているが、大半は低カロリー食品、あるいは代謝促進物質などの組み合わせが多い。これらと異なり食欲をコントロールするペプタイドにも注目すべきではなかろうか? アメリカのブレイ教授らは、ユニークな、Co-Lipaseに由来するペプチドであるエンテロスタチンによる食欲抑制作用を示した。脂肪に特異的に食欲抑制がかかるというものである。われわれはこの物質に興味を持ち、これを合成してマウスに与え、脳関門を通ることを確かめ、脳内神経伝達物質の動きなどを検討した結果、このような面からの食欲抑制の可能性も有用なストラテジーであると考えている。
(3) 食品のもつ複合機能の見直し: 欧米で行われた喫煙者にたいするβ-カロテンの介入試験で、ガン死亡者が増え、失敗に終わり関係者を驚かせた。これに反し、演者らが協力して行ったコホート調査では、血液中β-カロテンの多いヒトほど,ガン死亡率も一般死亡率が低いことは明らかであった。この違いは何か? 前者は単独のβ-カロテン投与であるが、後者はカボチャなど緑黄色野菜摂取の結果であるといえよう。カボチャを食べた場合、β-カロテン以外に、ビタミンC,ビタミンE,食物繊維その他未知の生理機能をもった複合の働きである。サプリメントβ-カロテンの限界を知り、食品カボチャを食べることを見直すべきであろう。
(4) ストレス制御: ストレスをどのように回避するかは健康維持にとって重要な課題である。ビタミンCやパントテン酸などのビタミン類、そして微量元素の必要性はとうぜんであるが、人間の「過労死」のモデルになるといわれる「ラットの活動性ストレス」にたいして、甘い糖液が有効であるという実験結果に驚かされた。ストレスによって押しつぶされそうな現代人にとって、ストレス回避の手段を考えることは健康寿命にとっても大切であろう。
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機能性食品科学とニュートリゲノミクス
生活習慣病リスク低減に向けて
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約20年前、私が所属する東京大学農学部食品分野に拠点を置いた文部省科研費重点領域研究班は、生活習慣病を防ぐ機能性食品のコンセプトを確立した(第一世代機能性食品科学)。 この研究はNature (1993) に紹介されて以来、産・官・学での機能性食品科学研究の取り組みが世界的に活発化した(第二世代機能性食品科学)。 その中心は、生活習慣病を低減させる機能性食品の効果の解明、バイオマーカーの開発と機能性食品の創出研究である。また、機能性成分の活性構造相関をシステマチックに解析する研究に高い関心が払われている。
わが国では機能性食品を薬剤やサプリメントとしてではなく、日常の食品として、しかも長期間摂取するケースがほとんどである。したがって、成分の複合性、成分間相互作用、多機能性を十分考慮した評価システムが必要である。このためには、従来の生理・生化学的手法や分子・細胞生物学的手法では不十分で、総合的な解析手段が望まれる。
21世紀に入り、ヒト・ゲノム計画が完了した。22,000の遺伝子をすべて解読したゲノム計画完了は、栄養学・機能性食品科学にも大きなインパクトを与えた。このような経緯で数年前、欧米で誕生したのがニュートリゲノミクスという新科学である。これは、機能性食品の効能効果をDNAレベルで根源的・網羅的に検証する新しい技術として急速に発展している。
2003年、東京大学にイルシージャパン(ILSI Japan)寄附講座「機能性食品ゲノミクス」が設立された。目的は、食品素材の生理機能を遺伝子発現プロファイルから解析することである。とりわけ、食品素材の効能の科学的根拠を産・学連携で研究している。
本シンポジウムでは、ますます重要性を増すこの領域の誕生から現在までの経緯を紹介し、そして近い将来にやって来るであろう"第三世代"の機能性食品科学とニュートリゲノミクスを展望してみたい。
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高齢者に対する栄養状態の評価
The Mini Nutritional Assessment (MNA)による評価
| Yves Guigoz |
| Nestle Product Technology Center: Konolfingen, スイス | |
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MNAの有効性と特色: MNA (簡易栄養状態評価アセスメント) は信頼できる尺度と明確な閾値をもち、健康管理の専門家が被験者の健康度を判定し、評価する手法として有効である。 MNAスコアによる評価結果は、栄養素 (エネルギー、 炭水化物、繊維質、 カルシウム、 ビタミンD、 鉄、 ビタミンB6 及び ビタミンC )の摂取、並びに人体計測値と生物学的栄養パラメーター (ヘモグロビン、 アルブミン、 トランスチレチン、 トランスフェリン、 コレステロール、 レチノール、 α-トコフェロール、 25-OH-コレカルシフェロール, 亜鉛 ) とに有為に相関することが明らかにされている。 MNA簡易フォーム (MNA-SF) が開発され、リスクの低い集団において2段階スクリーニング法の有効性が確認された。
栄養評価: 社会生活を営んでいる高齢者 (n=2798、 7研究報告事例)では、明らかに栄養不良である人は少ない (1%, 変動幅0-3%)が、栄養状態が不十分となる危険性は高い(29%, 変動幅15-44%)。 外来患者や在宅看護の高齢者等のより虚弱な人達に対する開業医によるMNA調査結果でも(n=1355、8研究報告事例)同様のパターンを示した。即ち、栄養不良のリスクは4% (変動幅1-13%)、そして栄養障害のリスクが33%(変動幅8-63%)であった。 しかし病院や介護施設に入院している高齢者では、栄養不良の比率が高いことが報告された。 即ち、栄養不良の比率が病院 (n=3298,10研究報告事例) においては20% (変動幅7-32%)、介護施設 (n=2264、12研究報告事例) においては37% (変動幅5-71%) であった。 栄養障害に対するさらに高いリスク49% (変動幅25-60%) 及び44% (変動幅26-67%) が同じ集団において観察された。変動幅が大きいのは、主に介護依存度や健康状態の違いに因るものであろう。 病院環境においては、低いMNAスコアは、死亡率の増加、老人ホームへの入所の可能性あるいは滞在を引き伸ばす可能性を大きくすること関連している。
栄養学的介入: 介入試験において、経口的な栄養補助剤を与えることにより、MNAスコアを改善させた。従ってMNAは追跡評価の手段としても用いる事ができる。
結論: MNAは、十分評価された手段で、栄養失調の有無をスクリーニングするのに有効であり、高齢者の健康評価に用いられるべきである。 そして栄養学的な介入試験用の最小限のデータに組合せることが提案される。
簡易栄養状態評価表:MNA: ミニ・ニュートリショナル・アセスメントについて 葛谷雅文先生によるMNAの紹介 (参考文献3より引用)
MNAは、身体計測、一般状態、食事状況、自己評価の4つのカテゴリー、18の項目から構成される。初めにスクリーニングとして6項目の評価(合計14ポイント)を行い、12ポイント以上を正常とし、11ポイント以下の場合、さらに残りの12項目の評価を行い、合計点で判定される(30ポイント満点)。栄養状態が良好(24点以上)、低栄養リスクあり(17点以上、23.5点以下)、栄養不良(17点未満)の3ランクに分けて判定される。 MNAが高齢者栄養評価として優れているのは、評価にADL、痴呆、うつなど高齢者にとって栄養障害リスクとして重要な項目が組み込まれている点である。さらにこの評価法は採血をする必要がなく、特別な専門家でなくとも十分対応ができることも重要である。 MNAブランクフォーム:こちらからご参照下さい。
参考文献 1) Yves Guigoz, Ph.D., Sylvie Lauque, R.D., Bruno J. Vellas, Pr Identifying the elderly at risk for malnutrition The Mini Nutrition Assessment Clinics in Geriatric Medicine 18 (2002) 737-757 2) Masafumi Kuzuya, M.D., Ph.D., Shigeru Kanda, M.D., Ph.D., Teruhiko Koike, M.D., Ph.D., Yusuke Suzuki, M.D., Ph.D., Shosuke Satake, M.D., Ph.D., Akihiko Iguchi, M.D., Ph.D. Evaluation of Mini-Nutrition Assessment for Japanese frail elderly Nutrition 21 (2005) 498-503 3) 葛谷 雅文 高齢者と栄養
高齢者ケアマニュアル 照林社刊 41ページ-46ページ
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